【お役立ち情報メニュー】フラッシュ脱毛と電気脱毛の違いブログ:18年03月20日
記憶の軸が少しずつずれはじめたママが、
姉貴の家族と暮らすようになって十年になる。
ママの容態が急変することはなかったが、
記憶の糸は緩やかに、しかし確実に細くなっていく…
今では、ママにとって
毎日会えないオレは、
どこかのお姉さんであったり、
誰かの奥さんであったりする。
そんなママが去年の春、
急な発熱で慌ただしく入院した。
そのことを告げる電話での姉貴のゆっくりとした口調が、
かえってママの緊迫した状況をうかがわせた。
ナースステーションからよく観察できる位置のベッドで
ママは眠っていた。
義歯をはずしたクチ元はくぼみ、
そこから息が洩れ続けることだけを祈りながら
蒼白いママの顔をみつめた。
とうとう…という言葉が頭を過ぎる。
ありがたいことに、
熱は上下しながらも少しずつ平熱に近づいていき、
入院から三日後、一般病棟の個室に移ることができた。
快方に向かってはいたが
熱発の原因が不明とのことで、
姉貴とオレは
交代で24時間中ママに付添った。
体温が安定しないことが不安だったこともあるが、
ママと二人きりになれる時間を
オレは大切にしたかった。
ここなら、今なら、照れずに思いきりやさしくできる…
ご飯前、おしぼりで手を拭いてやると、
「ありがとうございます。すみませんねぇ」と
他人行儀なことを言う。
ミキサーで砕いた形のないご飯でも、
「ああ、おいしい」と目を細め、
介助するオレに、
「ねえさんも、おあがんなさい」と気を遣う。
童謡のCDを流すと、
言葉を覚えはじめた娘のように語尾だけをクチずさみ、
指で調子をとる。
多くの言葉を忘れてしまっているはずなのに
プラス指向の言葉だけが出てくることは、
ママを世話するオレにとって
何より心安らぐことだった。