【お役立ち情報メニュー】注目されている銀座カラーの全身脱毛コースブログ：17年06月30日
「今日の12時ご飯、何がいい？」
私は父に尋ねた。
「テキが食べたいのぅ」
テキというのはビーフステーキのことだ。
昔はビフテキと言っていた。
父はそれをさらに短くテキと呼んでいたのだ。
魚釣りが趣味の８５歳の父だから、
焼き魚とか、煮物とかを想像していた。
「ビフテキかぁ、うふふふ」
私は意表を突かれて、笑いがこみ上げてきた。
父は入院していた。しかも末期癌。
からだ中には特有の疼痛を抱え、
痛み止めも欠かせなかった。
根治することはもはや不可能で、
治療はもっぱら痛みをとることと、
延命を秤にかけるような綱渡り状態だった。
体力的にも
ある種の小康状態でいられる最後の段階だろうと言う。
主治医と相談して
思い切って自宅へみっか間の外泊を決めた。
その２４時間目に食べたいと言ったのがビフテキだった。
上等の牛肉を張り込んで２枚買ってきた。
満足そうに食べる父の顔を見ていると、
思い切って帰ってよかったと心から思った。
そして、自宅療養最後の日…
父が自宅で過ごす最後かもしれないという
厳しい現実には気づかぬふりをして、
私は尋ねた。
「今日は、何食べる？」
「お惣菜屋のコロッケがええのう。
アレならゴミも出んし、片付けもいらんしなぁ」
自宅で最後になるかもしれない食事に選んだのが、
お惣菜屋のコロッケ…
疼痛にいつ襲われるかわからない父を
車で二時間かけて
病院まで送り届けなければならないという大仕事を控えている
娘を思う父の選択だった。
父は最期まで私を思い、気遣い、
父として私を甘やかしてくれるというのだった。
私はこみ上げてくる何かをこらえるのに
これほど苦労したことはなかった。